米大統領選の民主党候補指名を掴んだヒラリー・クリントン前国務長官(68)。私用メールを公務に使用していた問題で7月5日、コミー連邦捜査局(FBI)長官から「刑事訴追しない」とのお墨付きを得た。これで万全の態勢で選挙戦に臨めるか、と陣営では期待が高まったかもしれないが、なお彼女に対する疑惑が尾を引いている。ABCテレビとワシントン・ポスト紙の世論調査だと、米国民の6割近くが彼女の行為を疑問視、FBIの判断を「支持しない」と答えた人は56%で、「支持する」の35%を大きく上回った。
 その後、クリントン氏の私用サーバーがロシアのサイバー攻撃を受けていた疑いが浮上した。
 さらに、複数のロシア情報機関が米民主党全国委員会のコンピューターにサイバー攻撃を仕掛けていた事実が表面化した。一体、ロシアの狙いはどこにあり、どんな情報が盗まれたのか。米大統領選はロシアも絡んだサイバー情報戦争の様相も呈してきた。

グッチファーは米国に移送

 クリントン前長官のeメール問題は、今年1月本欄で伝えたように、彼女と親しいジャーナリスト、シドニー・ブルメンソール氏(67)のeメールアカウントがハッキングされていたことがきっかけだった。彼が前長官に対して間違ったリビア情勢を報告していた事実などが、前長官あてのeメールから判明した。
 これは、通称「グッチファー」(本名マルセル・レヘル・ラザール=44)と呼ばれる奇妙なルーマニア人ハッカーの仕業だった。世界を支配する秘密結社とも言われる「イルミナティ」の実態を暴くのが動機とも伝えられ、ブッシュ前大統領の妹ドロシー・ブッシュ・コッチさんやパウエル元国務長官らのeメールアカウントもハッキングしていた。
 前大統領が趣味で絵を描いていたことや、父のブッシュ元大統領が病気であることなども暴いた。懲役7年の罪で、ルーマニアの刑務所で服役していたが、今年4月米国に移送され、現在バージニア州の拘置所で拘留中。
 そのグッチファーがNBCテレビとのインタビューで「クリントン前長官のサーバーにもアクセスしていた」と認めていたというのだ。これに対して、クリントン選対本部などは「サーバーは安全で、ラザールの発言には根拠がない」と否定。
 コミー長官も7日の下院監視・政府改革委員会での証言で「彼はやっていない。彼自身、それはウソだと認めている」と述べたが、火消しにはならず、米メディアでは引き続き、この疑惑も取りざたされている。

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