8月3日午前7時50分ごろ、北朝鮮南西部の黄海南道殷栗付近から2発の弾道ミサイルが発射された。1発目は発射直後に爆発したが、2発目は北朝鮮本土を横断して約1000キロを飛行。秋田県男鹿半島の西約250キロのわが国EEZ(排他的経済水域)内に「着弾」した。飛行距離からして、発射されたのは中距離弾道ミサイル「ノドン」とみられる。
 北朝鮮ミサイルの初めてのEEZ「着弾」ということもあり、マスメディアはさまざまな形でこの事案を取り上げた。「ミサイルの精度がどんどん上がり、日本の近くに落ちていて怖い」「Jアラート(全国瞬時警報システム)が鳴らなかったのは政府の怠慢ではないか」といったもの、また北朝鮮が保有するさまざまな種類のミサイルを全て同じものとして扱う報道も散見された。これは全て軍事に関する知識不足からくるものであり、筆者は違和感を覚えた。
 そこで改めて、北朝鮮のミサイルについての論点を整理しておきたい。

どのミサイルが「実戦配備」済みか

 まず、北朝鮮が現在保有するとされる弾道ミサイルについてまとめておこう。
(1)スカッド(射程約500キロ、韓国を目標)
(2)ノドン(射程約1300キロ、日本を目標)
(3)ムスダン(射程約2500~4000キロ、グアムを目標)
(4)テポドン2(射程約10000キロ、米本土を目標)
(5)KN08(米本土を目標?)
(6)SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)
 この中で、すでに完成品として実戦配備されているのはスカッドとノドンだけである。スカッドはすでに1980年代半ばには生産と配備が進められており、現在は改良して射程を1000キロ程度まで延長したスカッドERも配備しているとみられている。これは射程からして、韓国を攻撃目標にしたものだ。
 今年になって発射が相次いだのがムスダンだ。これも「実戦配備済み」という報道があるが、専門家はまだ開発中とみているミサイルだ。ムスダンは、旧ソ連のミサイルSS-N-6を90年代に北朝鮮が購入したといわれてきたが、その後20年以上1度も発射が確認されなかった。それが今年4月に急に初発射を行い、その後失敗を重ね6回目でやっと高度1000キロまでの飛行に成功した。(6回目だけが成功で、その前後は失敗したとの報道もあった。)つまり20年間手つかずにしていた代物を、ここにきて急に部品等を手直しし、ようやく飛ばすことに成功した段階といえるのだ。グアムに確実に命中させることができる兵器という意味においては、まだ開発段階とみるべきミサイルなのである。
 それはテポドン2も同様だ。北朝鮮はテポドン2、いわゆる「人工衛星」打ち上げを2009年4月、2012年4月と12月、今年2月の4回行い、3回目と4回目に「衛星」の地球周回軌道投入に成功したとされる。これでようやく、北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)の基礎技術を得たという段階に入ったとみることができるが、これも米本土に確実に命中させることができる兵器としては開発段階のミサイルなのである。またKN08は発射実験すら行われていないし、SLBMも昨年試験発射に成功し、さらに今年4月と7月に試験発射をしたと発表したのみで、当然実戦配備されているわけではない。

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