今般の内閣改造の目玉人事の1つは、稲田朋美前自民党政務調査会長の防衛大臣抜擢だろう。第2次安倍政権での内閣府特命担当大臣(規制改革担当)以来の2度目の入閣だ。安倍晋三首相は、稲田氏に重要ポストを歴任させることで、自身の後継者として育成する狙いがあるとされている。

「伴食大臣」

 昨今ブームが再来している田中角栄はかつて、総理総裁の条件として、自民党3役(幹事長、政調会長、総務会長)のうち幹事長を含む2役、外務大臣、大蔵大臣(現在の財務大臣)、通商産業大臣(現在の経済産業大臣)のうち2閣僚を経験していることだと述べたという。派閥の領袖がこれらの要職につきながら、次の総理総裁を目指して鎬を削るという自民党派閥政治の全盛期にはぴたりと当てはまる方程式だった。今に至るまででこれに該当する最後の例は橋本龍太郎だ。幹事長、蔵相、政調会長、通産相を経て政権の座に就いた。
 一方で、防衛大臣の前身にあたる防衛庁長官は、典型的な「伴食大臣」だった。玄宗皇帝に仕え、唐朝の絶頂期である開元の治を宰相として支えた姚崇が、ある時不在だったところ、盧懐慎という人物が代行したが政務は停滞し、伴食宰相と称されたという故事に因む。長官経験者で総理総裁を務めたのは、中曽根康弘と宇野宗佑だけであることからも、55年体制下では、防衛庁長官は総理総裁への足掛かりとは考えられていなかったことがわかるだろう。

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