米有力紙ワシントン・ポストは、8月4日、オバマ大統領が核実験全面禁止を求める決議案の国連安全保障理事会への提出を検討していると報じた。これに先立ち7月10日には、来年1月20日までの残り任期の間に、核兵器の先制不使用(No first use, NFU)の宣言を検討していると報じた。これに呼応するかのように、クリントン前国務長官と民主党大統領候補の座を争ったサンダース上院議員が、オバマに対して先制不使用を求める書簡を送るなど、米国内での動きが俄かに活発になっている。
 日本国内では、沖縄タイムスが「〈米の核先制不使用策〉日本は抵抗勢力と堕すのか」という記事を配信するなど左派は歓迎の色を示した。しかし、これも報道によれば、安倍晋三首相は7月26日、首相官邸に表敬で訪れた日系人のハリス太平洋軍司令官に対して、北朝鮮情勢を挙げつつ、先制不使用に反対の意向を伝達したという。日本にとどまらず、メイ首相が「核のボタン」を躊躇なく押すと表明したイギリス(「『3つの柱』を打ち出した英国『メイ新政権』の外交戦略に学べ」参照)、同じくアメリカの同盟国の韓国なども反対だという。

ノーベル平和賞をもたらした「核なき世界」

 オバマ氏は2009年1月の大統領就任直後から、核軍縮への意欲を示していた。同年4月、プラハでの演説で、核兵器の使用経験がある唯一の核保有国として道義的責任があるとし、核なき世界を掲げた。世界最強の米軍最高司令官としての適格性を疑われかねない演説ではあったものの、世界中で大きな反響を巻き起こした。10月には、アメリカ大統領としては、在任中に弱腰外交を批判された同じく民主党のカーター以来となるノーベル平和賞を受賞。今年5月には、現職大統領として初めて広島を訪問し、原爆死没者慰霊碑前で演説したことは、多くの方の記憶に新しいだろう。
 こうした一連の核なき世界に向けた取り組みの集大成として、核の先制不使用、核実験禁止を求める国連安全保障理事会決議の採択に加えて、自らがメドヴェージェフ前ロシア大統領との間で結んだ核軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長などを検討し、これらを外交上のレガシーにしようという算段のようだ。

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