日本だけではなく、世界も振り回していたシン・ゴジラ

 庵野秀明総監督の「シン・ゴジラ」は、今年の日本映画最大級のヒット作となるようだ。興行面での成功もさることながら、ゴジラという怪獣に日本政府がどう対処していくかというそのリアリズムにも、各方面から注目が集まった。
 安倍首相は9月12日、自衛隊高級幹部会同に伴う懇親会で次のように挨拶したという。
「今話題の映画『シン・ゴジラ』でも、自衛隊が大活躍していると聞いています。(中略)統合幕僚長以下、自衛隊員の皆さん、かっこよく描かれていると伺っております。このような人気もまた、自衛隊に対する国民の揺るぎない支持が背景にあるものと思います」
 もちろん筆者も観た。確かに前半部分の政府の対応の様子は、東日本大震災を想起させる迫真に満ちたものだった。だが筆者がより関心を抱いたのは、後半、アメリカ軍や国連の名前が出てくるあたりからだ。そこで、「シン・ゴジラ」を国際的な視点で考察し、安全保障という観点から論じてみようと思う。解説の都合上、まだ観ていない人にとってはネタバレになる可能性もあるが、お許しいただきたい。

まずは「事態認定」から

 有事の場合、“今ここにある危機”がどういう事態なのかという「事態認定」からスタートする。
 映画のケースでは、2004年9月17日に施行された国民保護法により、「原子力発電所などの破壊」など「危険性を内在する物質を有する施設等に対する攻撃が行われる事態」に相当するとして、「緊急対処事態」と認定される可能性がある。
 しかし、その対象は「武力攻撃に準ずるテロ等」であり、この「等」にゴジラが該当するのかという点があいまいとなる。
 さらに、「相手に対する破壊や殺傷を目的とする武器の使用」が可能となる「武力攻撃事態」を認定するにも、その対象は「国または国に準ずる組織」と、政府は国会答弁で回答してきた。例えばISからの武力攻撃が発生しても、これは「国に準ずる組織」だから防衛出動下令は可能なのだが、ゴジラのような生物は想定していない、ということである。
 生物による多大な被害への対処については、災害派遣が順当だろう。実際2011年1月、鳥インフルエンザが大流行した際には、佐賀県知事の要請によって陸上自衛隊が災害派遣され、鶏の殺処分を行ったという例もあるから、ゴジラの「駆除」に自衛隊が出動してもおかしくない、という理屈は成り立つ。
 だが、クマやイノシシを駆除するような方法ではゴジラを退治できない、自衛隊の攻撃力を使わねばならないという時点で、映画の中の首相は、ゴジラの破壊活動を「武力攻撃事態」と認定し、防衛出動の下令に至ったのではないか。もちろんこれは法律の規定にないので「超法規的措置」である。
 なお映画の中では、東京都は治安出動を要請し、政府は「災害緊急事態」を認定するかどうかで苦悶する。だが「災害緊急事態」でもゴジラに対して武力を行使することはできない。やはりここはその対象を「国または国に準ずる」としてきた解釈を変更すると総理が決断し、自衛隊に防衛出動を命じたのである。

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