良質な介護士をハネ返す「難試験の障壁」

執筆者:出井康博2008年5月号

 今年夏にも予定されていたフィリピン人介護士・看護師の受け入れが遅れることになった。三月に休会したフィリピン上院が日本との経済連携協定(EPA)の批准を先送りしたからだ。 当初二年間で介護士六百人、看護師四百人の日本への受け入れは、二〇〇六年に小泉首相とアロヨ大統領が合意したEPAの目玉だ。すでに日本の国会は承認し、あとはフィリピン側の批准を待つばかりという状況が昨年から続いている。 フィリピン政界では今、政府発注事業の汚職問題でアロヨ大統領が苦境に立つ。それが今回、EPA批准が遅れた表向きの理由だが、背後にある日比両国の大きな齟齬も見逃せない。EPAによって来日するフィリピン人介護士・看護師の位置づけが、両国間で全く異なっているのである。 日本政府は「人手が足りないから外国人を入れるのではない」(厚生労働省)というスタンスで一貫している。つまり、フィリピン人介護士・看護師を「労働者」として受け入れるのではなく、目的は日本での「研修」だというのだ。 それに対して送り出し側のフィリピンが望むのは、外貨を稼ぐための長期的な就労だ。しかし彼らは入国から三―四年後には日本人と同じく日本語で国家試験を受け、資格を取得できなければフィリピンへと送り返される。この条件がある限り、実質的には短期的な「研修」しか望めないため、フィリピン側でEPAへの熱がすっかり冷めてしまっている。

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