あのビデオの規格争いを凌ぐ大決戦の主役は、東芝とソニーだった。世界市場の覇権をかけて競った両陣営の優劣を分けたものは――。「苦渋の決断。これ以上(事業を)継続すれば経営に大きな影響が生じる。ワーナーが離れた後では、もはや勝ち目はない」 二月十九日夕刻、あふれんばかりの報道陣が詰めかけた東芝本社。西田厚聡社長はテレビカメラの放列を見据え、言葉の一つ一つを噛みしめるように敗戦の弁を語り始めた。 次世代DVDの規格争いは、勝者が世界中の市場を総取りできる天下分け目の決戦だった。主役は日本メーカー。なかでも東芝は一九九六年に誕生した現在のDVDの規格争いを制した盟主だ。次世代の規格として「HD DVD」を掲げ、ソニーや松下電器産業、シャープなど多くの電機メーカーが支持する「ブルーレイディスク」を敵に回して孤軍奮闘してきた。その終戦の日が訪れたのである。 アメリカの映画最大手、ワーナー・ブラザースがソニー陣営を支持することを表明した一月四日から一カ月半での“玉音放送”。家庭用ビデオのVHSとベータの規格争いは十年以上に及んだが、次世代DVD戦争は二〇〇五年五月の規格統一交渉決裂から三年足らずで決着した。

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