9月19日、潘基文国連事務総長(右)と会談する李克強中国首相 (c)AFP=時事

 南シナ海における中国の進出や、尖閣諸島をめぐる様々な摩擦を日々目にしていると、しばしば中国は国際的なルールを無視し、傍若無人な行動を平気で行う国家のように見える。確かに、そうした証拠は無数に散見されるし、その現実は否定しようがない。
 しかし、国連にいると中国はまったく違う国家に見えることが多い。日本から見ると、中国は安保理常任理事国であり、拒否権を振りかざし、自国の主張を世界に強硬に押し付ける国のように思われがちである。しかし、筆者が国連で観察していた中国は必ずしもそうした態度に終始していたわけではなかった。筆者自身は中国の専門家ではないので、中国の外交政策、国連政策を十分に解説することはできないが、限られた観察範囲から中国の国際機関での振る舞いについて考えて見たい。

ロシアの陰に隠れる中国の拒否権

 常任理事国としての中国は、数字だけ見ると2000年代に入ってからの拒否権発動の数は6回であり、アメリカの11回(うち10回は国連に対して否定的だったブッシュ政権時)、ロシアの12回と比べても決して多いとは言えない。しかも中国が単独で拒否権を発動したケースは2000年代に入ってからは1度もなく、全てロシアと共に発動している。しかも、これら6回のうち、4回はシリアに関する安保理決議に対する反対であった。中国はシリア内戦に対して直接の当事者ではなく、シリア問題について積極的に行動しているわけでもない。一般論として、中国はアサド政権の正統性を認めており、外国の介入による紛争解決には反対しているが、それは自国におけるウイグル族によるイスラム系テロとの戦いに外国から介入されたくないという政策に基づいたものであり、必ずしもアサド政権を維持しなければならないという信念や利益があるわけではない。そのため、シリア内戦に関する決議でロシアとともに拒否権を発動したのは、中国の政策というよりもロシアとの関係を重視した結果と言えよう。
 また、その他の2回については、2007年のミャンマーと2008年のジンバブエの人権問題であった。ミャンマーに対する決議案は安保理がミャンマーの軍事政権に対して武力による抑圧を非難し、民主派のアウン・サン・スー・チーとの対話を呼びかけるものであった(S/2007/14)。しかし、中国は安保理がミャンマーの内政に干渉すべきではないとして拒否権を発動している。この決議はアメリカとイギリスが提案国であり、ロシア、中国以外に南アフリカが反対し、インドネシア、カタール、コンゴが棄権した。
 またジンバブエに対する決議案はムガベ大統領による野党勢力への武力行使と人権抑圧に対するものであり、武器禁輸とムガベ大統領をはじめとする政権中枢の個人資産の凍結などを含む制裁決議案であった(決議案の文書番号はS/2008/447)。当時、ジンバブエの問題は国際的にも報道され、深刻な経済危機をもたらしていたこともあり、多くの国が提案国となったが、ロシア、中国の他、リビア、南アフリカ、ベトナムが反対し、インドネシアが棄権した
 このように、シリア問題以外の決議案でも、中国だけが突出した立場を取っていたというよりは、欧米主導の人権問題や内戦への介入といった決議に対し、内政不干渉の原則から反対する拒否権であり、中国のみならず他の途上国も同調するような内容のものであったことが見て取れるだろう。つまり、中国は拒否権を持つ国であっても、その力を振り回し、独善的な政策を押し付けているというような行動をしているわけではないと言える。

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