逆回転する国際政治の象徴となった「壁」

執筆者:池内恵2016年11月27日

 『フォーサイト』ウェブサイトの右側に設けてもらっている「中東通信」の欄で、「世界の『壁』を中東から考える」と題して、断続的に中東各地に現れていく壁やフェンスや堀を、取り上げている。

 これは中東に限定された問題ではない。グローバル化の進展が極まる中で、逆説的に、各地で様々な壁が築かれるようになっている

 メキシコとの国境に壁を作れと叫んで聴衆を熱狂させ、リベラルな有識者の顰蹙を買ったトランプ候補が米大統領選挙で勝利したことで、グローバル化の進展が逆説的にもたらす「壁」は、現在の国際政治の支配的なシンボルとしての地位を確立したのではないか。

多用される「壁」のメタファー

 『フォーリン・アフェアーズ』のウェブサイトに掲載された、イギリスのEU離脱と米国でのトランプ当選が示す「グローバル化の巻き戻し」の危険性に警鐘を鳴らした論考(Pierpaolo Barbieri, "Losers of Deglobalization:Why States Should Fear the Closing of an Open World," Snapshot, Foreign Affairs, November 13, 2016)は、かつての英国が、1880年代から1920年代まで自由貿易の世界的拡大によるグローバル化を推進した上で、世界恐慌後にグローバル化を巻き戻した過程を振り返っている。そこから波及して、第二次世界大戦に至った道筋を論じることで、現在の米国への戒めとしているようだ。しかし、記事の冒頭に付された写真には、ハンガリーのセルビアとの国境のフェンスと、それをパトロールする騎乗警官が写っている。

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