トランプ大統領誕生はヨーロッパ各国にとって、BREXITに続いて今年2回目の「激震」だった。
 フランスの著名な政治学者パスカル・ペリノー氏は、筆者を含む世界中の親しい研究者のところに、書いたものを日ごろからメールで送ってくる。ペリノー氏の知り合いで、フランス政治に関心のある世界の学者が含まれるメーリング・リストになっているのだが、これまではペリノー氏の論文が回覧される程度の機能しかなかった。しかし今回はアンドリュー・クナップというイギリスの著名な政治学者がすぐに「みんなどう思うか」という趣旨のメールをこのメーリング・リストを使って回した。それほどショックは大きかった。そして彼自身の最初の問題提起は、「世論調査は信用できるのか」だった。

世論調査で捕捉できない主張が勢いを

 筆者も含めて多くの人が僅差となってもクリントンの勝利を半ば信じていた。これは6月のイギリスの国民投票の時も同じだった。最後にはイギリス国民はBREXITを拒否する賢明な判断をするだろう。多くの人がそう思った。世論調査もそれを示しているように思われた。しかし現実はそうならなかった。「見えない有権者」「捕捉出来ない、隠れた人々」がいたのだった。
 フランスでは昔から言われていることだが、最終局面では世論調査よりも極右票は伸びる。ヨーロッパを代表するフランスの極右政党「国民戦線FN」の初代党首ル・ペン氏は2002年の大統領選挙でコンマ差ではあったが、第1回投票で2位につけ、決選投票に残った。このとき僅差で3位に沈んだのは社会党候補ジョスパン元首相だった。事前の世論調査ではル・ペンが追い上げていたが、第1回投票でジョスパンの2位は固いと見られていた。その分社会党の選挙キャンペーンは精彩を欠いた。決戦投票でジョスパン氏に投票すればよいと考えた支持者も多く、投票率が伸びなかった。結果的にはル・ペン氏の得票率が社会党候補の得票率を最後に上回った。
 つまり公けの世論調査では、極端な主張にくみすることを明言できない人たちが結構いるということである。「隠れトランプ」と言われる人たちだ。表立って表明できないという、当然の人間心理だ。これが表立たない支持票になる。世論調査を行う意味がないのではなく、また世論調査が信頼できないのでもなく、世論調査そのものが捕捉出来ない部分があるのである。それは世論調査の限界である。今日の危機は、そうした公然と意思表明しにくい主張を持った政治勢力が勢いを得ている現実にある。我々が思う以上に、米欧先進社会の闇は深く、根深い。

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