英国国教会を揺るがすカンタベリー大主教の舌禍

執筆者:マイケル・ビンヨン2008年5月号

聖職者の同性愛をめぐる対立に加え、大主教がイスラム法に“理解”を示したことから、聖公会は分裂の危機に――。[ロンドン発]聖公会(英国国教会)の最高指導者であるカンタベリー大主教はカトリック時代以来約千四百年の歴史をもち、イギリスの精神的支柱といっても過言ではない重要ポストである。そして現在、第百四代大主教の地位にあるローワン・ウィリアムズ博士は、ローマカトリック、東方正教会についでキリスト教では世界第三位の七千万の信徒を持つアングリカン・コミュニオン(世界聖公会共同体)三十八管区のトップでもある。 そのウィリアムズ大主教が窮地に立っている。 二〇〇三年、女王の名代である当時のトニー・ブレア首相によって任命されたウィリアムズ大主教は、リベラルで温厚な学究肌の大主教で、当初から指導力に欠けると批判を浴びてきた。聖公会内部の保守派とリベラル派の間の亀裂が広がるのをくい止められず、このままではコミュニオンの「分裂」という事態すら招きかねない状態となっている。そうなれば、政治的・宗教的影響は英米のみならず世界各地に及ぶ。 とりわけ大きな波紋を呼んだのは、二月に行なったイスラム教に関する発言だった。大主教はBBCラジオの番組で、イスラム法シャリーアの一部要素がイギリス法制度の中にいずれ織り込まれていくことは「避けられない」だろうと発言。人口六千万のイギリス国内に暮らす百八十万人のイスラム教徒のために、一般の法体系とは別の法制度を設けることを提唱したと解釈され、大きな反発を招いたのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。