政府系ファンドCICが警戒されても退けぬ理由

執筆者:八重山洋2008年5月号

 毎週一回、米ニューヨーク市内にある大手投資ファンド、ブラックストーン・グループのもとに、北京から一本の電話が入る。電話の主は中国政府系ファンド、中国投資有限責任公司(CIC)の海外投資担当者。会話の内容は「米国景気をどう見るのか」「サブプライム問題の行方は」とマクロ経済が中心で、たわいのないものだ。 昨年五月、中国政府はブラックストーンの上場に合わせる格好で三十億ドル出資している。ブラックストーンは上場後に四割近く株価を下げているから、出資で十億ドル以上の損失をこうむったはずだ。だが、CICの担当者は投資先に当たったりはしない。「全米最強とされるブラックストーンに接近することで様々な情報を入手し、次のディールのチャンスをうかがうのが彼らの戦略」(ブラックストーン関係者)だからだ。 CICの発足は昨年九月。中国政府が二千億ドル(約二十兆円)を投じ、資源確保やインフラ整備など国家戦略を主眼に運用するシンガポールのテマセク・ホールディングスをお手本にして設立された。 一九七七年設立のアブダビ投資庁(アラブ首長国連邦)など他のファンドに比べると歴史は浅いが、CICには勢いがある。昨年末にサブプライム損失を計上した米大手投資銀行モルガン・スタンレーに五十億ドルを出資。今年に入っても、豪英資源最大手BHPビリトンや、日本の国際石油開発帝石ホールディングスにも出資するとの観測が出ている。

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