ドイツの巨額脱税事件が欧州の金融界を揺さぶっている。郵便・物流大手のドイツポスト会長ツムヴィンケル氏が約百万ユーロ(約一億六千万円)の脱税容疑で取り調べを受け、引責辞任した。検察はほかに千人以上のデータを握っているとされ、問題はさらに拡大しそうだ。 きっかけは、スイスとオーストリアの間にある小国、リヒテンシュタイン公国のLGT銀行の顧客リストが、元行員によって不正に持ち出されたこと。この資料をドイツの諜報機関が高額で買い取っていたことが判明、米国のCIA(中央情報局)の関与も疑われている。ことは単なる脱税事件ではなく、リヒテンシュタインに代表されるタックスヘイブン(租税回避地)諸国と、ドイツや米国などとの間に横たわる長年の「制度問題」に波及している。 税率の高いドイツやフランスなどの富裕層が課税を逃れて資金をリヒテンシュタインやスイスなどに移しているのは半ば常識。国家権力から資産を守るための数百年にわたる「伝統」とも言える。LGT銀行はリヒテンシュタイン公家が経営する銀行で、リヒテンシュタイン側は「法治国家として疑問」とドイツのやり方に強く反発している。 リヒテンシュタインやスイス、モナコなどには、銀行が顧客情報を第三者に漏らすことを厳しく禁じた「銀行守秘義務」規定が存在する。第三者には外国の税務当局も含まれる。犯罪資金の情報はこの規定の適用除外だが、こうした国では脱税は刑事罰の対象ではないため、ひとたび資金が運び込まれれば、外国の税務当局は、まったく手が出せなかったのだ。

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