発生してからでは遅い。日本政府や企業は今、在外邦人を救出するための対策作りに追われているが、いくつもの難題が――。 新型インフルエンザ発生への懸念が世界的に高まっている。専門家の間では「もはや秒読み段階」という言葉さえ出始め、国内で流行が起こった場合への備えもここ数年で進んできた。ただ、相対的に遅れているのが、東南アジアや中国など国外で感染が始まったとき現地の日本企業駐在員やその家族といった在外邦人をどう救出するかという課題への対応。ごく一部の関係者が水面下で対策に動き始めているが、そこには「主体的に意思決定しにくい日本の政府や企業」という厚い壁が立ちはだかっている。     *「パンデミック(爆発的感染)が始まったら、日本人が暴動の標的になるかもしれない」――インドネシアの首都ジャカルタの日本人社会の一部で最近、こんな心配が広がっている。新型インフルエンザにも効果があるかも知れないとされる抗インフルエンザウイルス薬タミフルを、経済的に豊かな日本人なら持っているだろうとして暴徒が襲撃してくる危険性がある、というわけだ。 新型インフルエンザの前段階である高病原性鳥インフルエンザ「H5N1」によるとみられる感染死者数は、確認されただけでインドネシア百七人、ベトナム五十二人、エジプト二十人、中国二十人などとなっており、世界全体では約二百四十人に達している。

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