『言語学の誕生―比較言語学小史―』風間喜代三著岩波新書 1978年刊(現在は古書としてのみ入手可能) あらゆる学問の進歩は、優れた学者の独創的な業績によって達成される。物理学の進歩は、ニュートンやアインシュタインらによって実現したし、数学の発展に貢献したのは、エウクレイデス(ユークリッド)、アルキメデス、オイラー、ガウスなどの偉大な数学者たちであった。人文学の分野でも、例えば哲学であれば、アリストテレス、カント、ウィトゲンシュタインなどの哲学者が、それぞれの時代において、この学問に独創的な寄与をなしたことが容易に想起されよう。 これらに比べて、言語学はまだまだ新しい学問ではあるが、やはり同様にその進歩は、優れた能力をもった言語学者たちに依存してきた。現代言語学の基礎を築いたのは、スイスの言語学者ソシュールであり、言語の一般的な性質を解明することを目的とする現代言語学は、「構造主義」と呼ばれるソシュールの学説を継承発展させる過程として捉えることができる。 その意味でソシュールは言語学の改革者であったのだが、実際のところ、この言語学者が最終的に解明しようとしていたのは、言語が何故に変化するのかという問題だった。すべての言語が変化することは、誰にでも観察できるし、過去の文献を有する言語については、異なった時代に書かれた文献を比較することによって変化を実証することが可能である。

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