トランプタワーを仰ぎ見る憂鬱なクリスマス

執筆者:青木冨貴子2016年12月25日
重装備でトランプ・タワー周辺を警備するニューヨーク市警の警察官たち(12月15日)(C)AFP=時事

 ティファニー本店のある五番街と57丁目から先に進もうとすると、人垣のなかで若い警官に制止された。
「この先は通行止めだ」
 五番街の56と57丁目の間には市警の大型バンやバリケードが並び、まるで戒厳令下の様相である。次期大統領に決まったドナルド・トランプのトランプタワーを警備するニューヨーク市警の厳戒態勢のためである。
 例年のこの時期、クリスマス・ショッピングの客や高級ブランド店の飾り付けを見に来る人たちで五番街はごった返し、付近の交通渋滞は酷くなる。

「トランプ警備」に3500万ドル

 とはいえ例年の渋滞も、今年に比べれば大したことなかったと多くのニューヨーカーが憤懣をぶつける。
 トランプが次期大統領に選出されてから、周辺には約100名の警備が配置され、大型ショットガンを抱えるヘルメット姿の警官10名ほどがタワー入口を固める。トランプ家の専用口のある56丁目はマディソン街から六番街までの2ブロックが全面交通遮断された。そのために車は動かず、交通壊死とまで呼びたくなるほどの混乱である。
 タワー隣のティファニー本店やグッチなど近くの高級店では客足が激減し、五番街に集まるのは物見高い観光客やテレビ局リポーターばかり。
 ニューヨーク市が支払う警備費は選挙当日から大統領就任式の1月20日までに3500万ドルもかかると言われている。
 クリントンに投票した市民が圧倒的に多いニューヨークでは、選んでもいない次期大統領の警備のために、巨額の税金が使われる。そればかりか、市内の大混乱は目を覆うばかり。  
 6週間前、予想もしなかったトランプ勝利の衝撃にうろたえた市民は、多くが憂鬱な気分に引きずり込まれ、不眠や精神不安定を訴え、独裁者が巨大な権力を握る悪夢を見るようだと恐怖に震える者もいる。
 確かにトランプタワーで進められる閣僚人事の顔ぶれを見てみると、ただの恐怖が現実のものとなってくるように映る。まして“最強の独裁者”と呼ばれるロシアのウラジーミル・プーチンが、トランプ有利になるよう米大統領選に介入したというCIA報告が発表になってみると、米国はこの先、どこへ行くのか問いかけたくなる。

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