ナイトクラブに銃を構えて侵入する人物。防犯カメラに映っていた(C)EPA=時事

 

 中東の大晦日や新年が平穏であることは稀である。1月1日の午前1時過ぎ、トルコ・イスタンブルの中心部ベシクタシュ区オルタキョイの、ボスボラス海峡に面した場所にある一流ナイトクラブ「レイナ」で起きた銃乱射・大量殺害事件は、このことをまたも思い出させた。「イスラーム国」系のメディアが、トルコ政府を「十字軍の守護者」と論難し、キリスト教徒が祝う多神教的祝祭を攻撃した、と主張する犯行声明を出したが、実行犯の素性と背景はまだ明らかではない。

 当初の報道では35名、その後39名の死者がすでに出ていると報じられているこの事件が、トルコの内政と中東国際政治の中で持つ意味と、そしてシリア内戦やイラクでの紛争、「イスラーム国」やクルド人勢力との関わりでいずれも鍵となるトルコ政治に及ぼす影響を、考えてみよう。

「世俗主義的トルコ」の象徴への攻撃

 イスラーム教や、ギリシア正教が支配的な中東においては、西暦は用いられていても宗教的祝祭・儀礼とは連動していない(レバノンのマロン派キリスト教徒のようにカソリック化・西欧化が進んでいる場合は除いて)ため、街の雰囲気は普段とさほど変わらない。西暦の大晦日・新年にかけての「カウントダウン・パーティー」は純然たる西欧の風習・流行の移入で、これが一部で盛り上がりを見せるのは、世俗主義によって建国したトルコならではである。今回の事件は、イスラーム教の規範から逸脱し西欧近代の世俗主義に走った者たちが集まっているとイスラーム主義勢力側から見なされる象徴的な場所に対して行われた攻撃と言える。

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