バイブラント・グジャラートに参加した世耕経産相(左)と握手するモディ首相 (C)AFP=時事

 1月10日にインドのグジャラート州の州都ガンディナガールで開かれた「バイブラント・グジャラート(グジャラート州活性化)」の開会式でのモディ首相は、彼に寄せられる賛辞に喜色満面であった。彼はグジャラート州の首相を12年間務め、3年前にインドの首相の座に就いた。隔年の「バイブラント・グジャラート」開催は彼の発案によるもので、いわば故郷に錦を飾るという側面もあった。かつての州都アーメダバードから政治都市ガンディナガールまでの車で30分余りの道路脇には象徴的な看板が掲げられていた。モディ首相の写真の隣には「ゴー・デジタル、ゴー・キャッシュレス」(電子空間へ、現金なしの社会へ)の標語があった。ここにこそ、モディ首相しか構想できない、いわば異次元の政治と経済の空間が広がろうとしている。

「電子手帳、サイフ、通信機」

 昨年11月に一夜のうちにインドで流通している紙幣の約86%に相当する1000ルピー(約1700円)、500ルピー(約850円)紙幣の廃貨が決まった。その直後にインド訪問の予定があった私も、ATMに列をなす人々の困惑ぶりを見ることになった。インド社会の内部の「袖の下」文化に立ち向かうため、そしてタックス・コンプライアンス(納税義務の徹底)を期すための、思い切った踏み込みであった。しかしこうした度肝を抜くような案が、モディ首相の創見によるとみる必要はあるまい。たとえばナンダン・ニレカニ氏の主張はこれに近いものだ。
 IT企業インフォシスの創業者群に連なるニレカニ氏は、モディの前任者のマンモハン・シン首相の下で、13億人のインド人の1人ひとりに国民番号を付番する所管の責任者となった。彼の経済活動の本拠であったバンガロール市のあるカルナタカ州では、貧困者に発給される食糧キップが、州の人口の半ば前後の数になってしまう、という状況が発生していた。付番は行政の効率性改善や資源配分の歪みの是正のために不可欠であった。彼の主張に耳を傾けたシン首相が、付番制度の設計責任者に彼を任命した。その職を拝名した直後の彼にインタビューしたとき、彼は次のような構想を示してくれた。
 貧困者に「電子手帳、サイフ、通信機」の機能を一体化した簡単な端末を配る。これにより、たとえば道路の修復作業で1日の稼ぎを得た人は、「電子サイフ」に相当分を入力してもらう。雑貨屋には読み取り機があり、買い物が可能になるし、金融機関代理店を小売店が兼ねていれば、「電子サイフ」でもあり、また「電子預金通帳」でもありうる、というわけだ。インドの津々浦々に金融機関を設置する必要などないし、そのような非効率は誰のためにもならないと、インドの未来像を明確に述べたのだ。

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