世界経済の展開を、原因に対する結果、という単純な因果関係で記述することはもはや難しい。「窮まればすなわち転ず」という多次元的な展開軸に沿ったストーリー(物語)を理解するためには、少なくとも手元に万華鏡を置かねばなるまい。手回しすれば風景が一変するという機微こそが認識上の心得だ。 グローバリズムに対して米国の草の根での反発が確認されたのは、二〇〇六年の中間選挙を控えての頃であった。起承転結の「起」に相当したのが、ドバイ・ポーツ・ワールドというアラブ首長国連邦の港湾運営会社による、米国の主要港湾管理会社取得の動きだった。この年の春に、米国議会は反対一色となり、彼らの対米投資は急遽中止となったのだ。 米国連邦政府は港湾の安全については、外国の優良輸出業者の法令順守の仕組み整備と、第三者による確認手続きを前提に、簡便な入関手続きの導入を図った。従って港湾管理会社は、荷揚げや荷さばきの円滑化に必要な投資所要額に対する収益率を考える単なるサービス供与企業に過ぎなかった。だから港湾管理会社への出資者が自己の持分の売却で資金の回収を図ることに反対する何の理由もなかったのである。 しかし〇一年の九・一一以来、国土安全保障省まで設置して反テロ対策をとったことと、アラブの港湾会社へのニューヨークやフロリダの港の委託とはいかなる関係なのか、との疑問が草の根のレベルで強まった。党派を問わず上下両院の議員のほとんどが、こうした反発にあえて立ち向かうことはなかった。

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