実にお粗末なシステムを作ったものだ。医療費を圧縮する仕組みはなく、公的医療保険制度の崩壊を早めるだけ……。 四月一日、全国に約千三百万人いる七十五歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」がスタートした。「ネーミングがよくない」という福田康夫首相の意見を受け、厚生労働省は制度スタート当日に「長寿医療制度」との通称を用いることにしたが、看板を掛け替えたところで中身が変わるわけではない。この制度が設けられたのはお年寄りの長寿を祝うためではなく、破綻寸前の公的医療保険制度の維持に向け、高齢者にも「応分の」負担を求めることに目的がある。 四月十五日には年金からの保険料天引きが始まり、目に見えて収入の減った高齢者たちからは怨嗟の声が高まった。二十七日の衆院山口二区補欠選挙では、後期高齢者医療制度の是非が争点となり、保守の牙城だったはずの山口県で自民党公認候補があえなく落選。福田政権を窮地に追い込んだ。 国民医療費の過半を六十五歳以上の医療費が占めている現状を考えれば、高齢者の負担増は当然との考え方もある。しかし、後期高齢者医療制度は財源負担を現役世代から高齢者に多少シフトさせるだけで、医療費そのものを抑制する機能はまったくない。それどころか、今年度の診療報酬改定で政府は日本医師会の求めに応じて技術料アップを決め、さらなる医療費の増加が確定している。そのしわ寄せが高齢者を直撃したと考えれば、診療報酬引き上げを決断した福田首相が窮地に陥ったとしても、同情するには及ばない。

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