小林由美・著/新潮社(クリックすると購入サイトに)

 アメリカ社会の「格差」拡大を批判する声は近年、絶えることがない。5~6年前には「オキュパイ・ウォールストリート」運動が盛り上がったし、2年前にはトマ・ピケティの分厚い本がブームになった。昨年の大統領選挙では、「バーニー・サンダース旋風」が吹き荒れた。ただし格差を是正する動きは、ついぞ政治的なモメンタムを持ち得ずに今日に至っている。サンダース候補はヒラリー・クリントンの牙城を崩せなかったし、そのヒラリーも本選挙では「まさか」の敗北を喫してしまった。

結果として、第45代合衆国大統領にはドナルド・トランプが就任した。現大統領が提示する処方箋は、グローバリズムを否定し、海外に移転した企業を呼び戻し、製造業の復権を目指してアメリカを再び偉大にするというものである。ちょっと話が違うと思うのだが、とりあえずはそれが「2016年選挙で示された民意」ということになっている。

 本書もまた書名から、そのような「格差嘆き節」の一種だと思ったら意表を突かれるかもしれない。確かに今のアメリカ社会における格差は度を過ぎている。が、それを拡大させているのは、グローバル化や金融資本主義といったありきたりな犯人ではなく、むしろ日進月歩の技術革新である。本書は在米生活36年の日本人アナリストが、「シリコンバレーに暮らしていて日々感じる危機感」が基になっている。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。