大山は鳴動したけれど結局は変わらず、か (c)AFP=時事

 

 トランプ政権の政治経済学的分析は重要だが、どう考えても十分な分析材料は集められそうもない。これは日本にいるからではない。米国にあってこれまでならば的確な分析をその都度示していた学者たちもお手上げ状態なのだ。ここでは2人の名前をあげる。 

学者たちもお手上げ

 リチャード・クーパー(ハーバード大学教授)はベトナム戦争後期のジョンソン政権の国務省で若き戦略家だった。この場合、戦略とは核戦争を巡るものではなく、すでに開始されていた世界経済の相互依存のもとで、いかにすれば米国の経済政策の整合性を維持できるか、という論点にかかわっていた。ベトナム戦費負担が重くなるなかで米国における需給ギャップは逼迫し、期待インフレ率の上昇は避けられなくなっていた。彼が1971年のドルの金本位制からの離脱までを見通していたとは断言できないが、国務省にあって、米国経済に襲いかかろうとする不安定要因と、米国が持続的に維持できる、世界への政治的かつ経済的関与との関連について分析を行っていた。
 このときの若き学究はその後も冷静に国際経済を分析の対象としてきた。1980年代には日本を、21世紀に入ってからは中国を取り上げて、その都度的確な分析を披露してきた。しかしトランプの登場とメキシコとの壁の問題については、どうやらお手上げなのだ。「日本は市場経済を重んずる国々と連携して、トランプ政権に正面から意見をすることはできないのか」と彼が語るとき、米国の内側から分析的に、かつ説得的に、あるべき経済政策を語ることの難しさがどの程度にまで高じているのかがわかる。

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