中国に見透かされたサルコジの「弱気」

執筆者:杉山文彦2008年6月号

[パリ発]パリでの北京五輪聖火リレー妨害を機に、中国で反仏運動が激化した問題は、フランスを始め欧州各国で「中国脅威論」の広がりに拍車を掛けた。サルコジ仏大統領は、急激な経済成長を遂げる中国とのビジネス拡大を優先しようとしていたが、チベット人弾圧を許すなという世論の圧力を受け、対中戦略が定まらない状態だ。「一九八九年の天安門事件まで振り子が逆戻りした」――。そんな言葉がささやかれるほど、今や欧州の対中国イメージは悪化した。仏大手スーパー「カルフール」が中国で不買運動の標的にされていたさなかの四月十九日、パリでも中国系住民ら数千人が北京五輪支持を求める集会を開催、「チベットは歴史的に中国領だ」などと訴えたが、周囲の反応は冷ややかだった。パリ市議会はその二日後、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマに名誉市民の称号を贈ることを決めている。 中国脅威論の要因は、実はチベット問題だけではない。仏左派系誌『ヌーベル・オプセルバトゥール』(四月二十四日号)は「なぜ中国は怖いのか」と題した特集を組み、「新興帝国の十の脅威」を並べた。内訳はチベットなどの「少数民族弾圧」のほか、フランスでも昨年夏騒がれた有毒塗料付きおもちゃなど中国製「危険商品」、欧州の得意先アフリカを中国企業が席捲している「新植民地主義」、さらに「人民元の安値戦術」「過剰な軍備費」「環境破壊」といった具合だ。あらゆる面で中国が不気味な国と映りだしたことがうかがえる。

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