中露が主張する「サイバー主権」の実態

執筆者:小泉悠2017年8月2日
ロシア外務省が「偽ニュース」と見なした欧米メディアの報道(ロシア外務省のウェブサイトより)(C)時事

 これまでの小欄で紹介してきたように、ロシア政府は、西側が情報戦によって「カラー革命」などの内乱を旧ソ連諸国や中東の権威主義的国家で引き起こし、「形を変えた侵略」を仕掛けているとの認識を抱いてきた。

 このような一種の陰謀論的世界観に拍車をかけたのが、2014年2月のウクライナ政変である。これによってロシアにとって御し易いヤヌコーヴィチ政権(一般的に「親露政権」と呼ばれるが、利権次第でロシア側にもつくというのが実際であった)が倒れ、反露政権がウクライナに成立したことは、ロシア側の目には「カラー革命」の最新バージョンと映った。そして、ロシア政府は、このような「戦争に見えない戦争」あるいは「形を変えた侵略」がロシアやその友好諸国にも及ぶ可能性があるとの主張をさらに強化するようになっていった。

 たとえば前回触れた2009年版『国家安全保障戦略』の後継文書、2015年版『国家安全保障戦略』(現時点における最新バージョン)は、現在のロシアを取り巻く状況を「ロシア連邦が自律的な対内的・対外的政策を進めることにより、世界情勢における自らの支配を保持せんとする米国及びその同盟国との対立」と位置付ける。その上で、西側はロシアに対して「政治的、経済的、軍事的及び情報上の圧力をかけ」ようとしているという。

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