元同僚の仕事はやはり気になる。5月に刊行され、手元にはあったのだがなかなか読む時間がなく、お盆の時期に目を通すことができた。

 林望著『習近平の中国――百年の夢と現実』(岩波新書)は、タイトルの通り、習近平体制になってからの中国を朝日新聞中国総局の特派員として見つめ続けた著者が、特派員の任期を終えて米国での留学という充電期間のなかで、満を持して書いた1冊である。   

 何度も一緒に働いたことがあるので、著者の丹念で生真面目な性格はよく知っているが、その性格そのままの筆致で、習近平体制の事実上の始まりとなった薄熙来事件から、日中関係、習近平の反腐敗闘争までを、丁寧に漏れなく描き出している。新書として、多くの読者に「習近平時代とは」という問題を考えてもらうのに格好の教科書になるだろう。

「最後の瞬間」の描写

 読み手として、あるいは同業者として、記述のなかで現場にいた者にしかわからない臨場感にあふれる場面にやはり目を惹かれる。 

 

 重慶市トップだった薄熙来の子飼いで、「打黒」(マフィアや汚職などの犯罪撲滅)などの重要政策を実行した重慶市副市長の王立軍が2012年2月、薄熙来を裏切って米国総領事館に駆け込んだ。その後、薄熙来が出席した全国人民代表大会で、著者は、薄熙来に直接質問する機会を得ている。

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