判決直前、国外逃亡していたインラック前首相(C)時事

 

 現在のタイの政治状況は「ソフトな独裁」、あるいはABCM複合体(Aristocrat=王室、Bureaucrat=官僚、Capitalist=財閥、Military=国軍)再構築への動きとも形容できそうだ。

 1991年2月のクーデターから様々な形で繰り返されてきた民主化運動――「国王を元首とするタイの民主主義」から「民主独裁反対」まで――は、しょせんは「クーデター→軍政→新憲法制定→総選挙→民政移管→政党政治→クーデター」というタイ政治の円環過程のひとこまといってしまえばそれまでとは思うが、いいかえるなら、タイの政治的な文化・風土に根差したABCM複合体の基盤は予想以上に強固だったということだろう。それはまた、中国共産党政権に託した「経済が発展すれば民主化に移行する」といった類の根拠なき淡い期待に相通じる。目下のところ中国においては、経済発展は民主化ではなく独裁を強化させる方向に働いているとしかいいようはない。

政治的安定を求めた国民

 タイにおけるクーデターを起点とする政治過程の経験則に従うなら、これまではクーデターから新憲法制定・総選挙を経て民政移管までを1年前後で通過してきた。1932年の立憲革命に遡るまでもなく、ここ四半世紀ほどの間に見られた1991年2月と2006年9月の2つの成功したクーデターの場合も、やはり1年前後で軍政を脱却し、民政へと移管してきた。だが、現在のプラユット政権の場合は色合いを異にする。

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