街は深い哀しみに包まれた(筆者撮影、以下同)

 

 バルセロナの目抜き通りで22歳のイスラム過激派の男が白ワゴン車を暴走させ、百数十人の死傷者を出した事件から1週間。ランブラス通りで13人の犠牲者が亡くなった場所には、ロウソク、ぬいぐるみや花束、犠牲者への追悼メッセージが地面を埋め尽くし、通り過ぎる人々が立ち止まって祈りを捧げている。アラビア語で書かれたメッセージを持ち、深く頭を垂れて祈るイスラム教徒の姿も少なくない。

 しかしその場所を除いて、バルセロナの街はまるで何事もなかったように日常に戻った。アイスクリームを食べながら散歩する観光客、テラスで楽しそうに食事をする人々――観光客も減った様子がなく、カタルーニャ広場とランブラス通りの人混みも変わらない。街も人間と同じように傷を受け、カサブタを作って、やがて再生していくものだが、この街の回復は、私が滞在したフランス、イギリスやベルギーと比べて驚くほど早く感じられる。

 その理由の1つには、テロ発生の30秒後には到着して、迅速な対応を行ったといわれるカタルーニャ州警察に寄せる、人々の深い信頼がある。これまで世界の表舞台に出て、記者会見を行うことなどなかったカタルーニャ州警察のトラペロ本部長は、緊急事態の中でも落ち着いて捜査の指揮を執り、被害者や家族へ気を配り、移民への偏見を広げないような思慮深い発言を重ねて、一躍時のヒーローとなった。刻々と変化する状況をカタルーニャ語、スペイン語、英語で一般人に伝えた州警察のツイッターのフォローは、事件直後から2倍に伸びた。21日に容疑者射殺を報告して市民の協力に感謝すると、「素晴らしい仕事をありがとう」「見事なコミュニケーションに感謝」「あなたたちは誇りだ」「永遠のヒーロー」と惜しみない賛辞が市民から贈られた。

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