印中「国境紛争」収拾にみる「大人の関係」

執筆者:緒方麻也2017年9月1日
海抜4785メートルもの高さにあるアルナチャル・プラデシュ州(インド)の印中国境。いつ紛争が起こってもおかしくはない (C)AFP=時事

 

 インドに隣接するヒマラヤの小王国ブータンと中華人民共和国の係争地ドクラム高地(中国名ドンラン)を巡り、インド・中国の両軍が対峙していた事態は、8月28日、両国政府が「即時撤退」で合意。数百人の両国兵士がわずか100メートル余りの距離でにらみ合っていた緊張は、約2カ月半ぶりに「解決」した。

 両国政府はこの間、一歩も引かずに非難合戦を展開。中国軍がチベット自治区で実弾演習を行い、インドのナレンドラ・モディ首相も8月15日の独立記念日の演説で、「インドには国を守る力がある」と宣言した。双方のメディアはもちろん、外国のニュースサイトなどにも「戦争に発展する可能性も」「事態はかつてなく緊迫」などと、対立をあおるような報道が散見された。

 今更ながら、印中2大国の関係の難しさを世界に突きつけた格好だが、そもそも今回のにらみ合いは、6月中旬、ドクラム高地周辺で進めていた中国による道路建設を、インド軍が「妨害」したことがきっかけだった。軍事力をバックにコワモテ対応を取った中国に対し、インド国民の一部は中国製品の不買運動を展開。これまで玩具や化学品、産業資材など中国製品の大量流入に頭を抱えていたインド政府は、ここぞとばかり中国からの輸入品93品目に対するアンチダンピング課税の実施を発表した。国内の発電プロジェクトなどから中国企業を締め出す考えを示唆するなど、両国の対立は「経済戦争」に発展する気配も見せていた。

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