連載小説 Δ(デルタ)(21)

執筆者:杉山隆男2017年9月10日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

巡視船「うおつり」乗っ取りの報道と、スティンガーミサイルによる海保ヘリ撃墜の生々しい映像は、日本人に「本物の危機」を突き付けた。門馬・内閣危機管理監と後輩の滝沢・内閣情報官が見つめるテレビ画面の中からは、識者たちのいらだちと不安が手に取るようにわかるのだった。そんな中で滝沢は、乗っ取り犯の「愛国義勇軍」が中国の単なる反体制集団ではないことを口にしはじめた。

 

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 最初に動きを察知したのは、東シナ海上空を遊弋するように飛びながら警戒監視活動をつづけていた航空自衛隊のAWACS、早期警戒管制機だった。ボーイング社の旅客機B767の機体に、アメリカ空軍が誇るAWACS、E3の警戒管制システムをそっくり移したこの軍用機E767は、米軍需産業の上得意、日本に向けてだけつくられた特注品のようなものだった。このため値段も1機当たり約560億円とべらぼうに高く、E3の倍近かった。

 しかし値段はただとらないというのもたしかで、この手のレーダーをのせた早期警戒機がふつう「空飛ぶレーダーサイト」と呼ばれるのに対して、E767は併せて「空飛ぶ司令部」という異名も授かっていた。搭載した高性能レーダーで単に上空を監視するだけでなく、最新のデータリンクシステムを駆使して、地上のDC、防空指令所の役割と同じく複数の戦闘機に指示を出したり、海上のイージス艦などと情報を交換して連係作戦を行なう司令部機能が備わっているのだ。このためE767には、通常、DCの巨大なレーダースクリーンの前に陣取って指揮をとる要撃管制官、コントローラーが乗りこんでいる。

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