各種京劇は日本でも上演されるが……(2017年6~7月に東京、大阪、名古屋で上演された日中国交正常化45周年記念京劇「楊門女将2017」)

 

「革命現代京劇」は現代社会に材を採り、毛沢東思想の偉大さを讃えるために創作された京劇で、文革推進派は優秀と認定した8本を「様板戯(模範劇)」に指定した。当時、文革派は権力闘争を進めるうえでの最強の武器と見做すメディア――新聞、雑誌、舞台、映画、テレビ、ラジオ、書籍――を総動員して模範劇を伝え続け、全国民に「偉大領袖毛沢東」の絶対無謬性を教え込んだ。

 古来中国では、芝居は人民にとって唯一ともいえる娯楽であった。そこで娯楽の機会を利用して、権力の側のみならず反権力の側も文字を知らない圧倒的多数の人民を教育(洗脳)してきたのである。なお、1949年の中華人民共和国建国時の識字率は20%との報告がある。ならば建国前の識字率は劣悪だったはずであり、娯楽=教育(洗脳)のカラクリが有効裏に作用したことは容易に想像できる。なお、2014年時点で、依然として10人に1人が文盲とのこと。

 毛沢東は娯楽即教育という伝統を巧みに利用し、政治洗脳教育に力を注いだ。かくて文革当時、毛沢東思想の「百戦百勝」ぶりを讃えるため、全国津々浦々で朝から晩まで模範劇が演じられ、最盛時には模範劇以外の娯楽は全国から消えたといわれたほどだ。

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