連載小説 Δ(デルタ)(25)

執筆者:杉山隆男2017年10月7日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらずじ】

「戦闘機がもっとも弱みをみせるのは、飛んでいないときだよ」――エプロンに整然と並んだF15を見ながら、ふと学生時代の老講師の言葉を思い出していた航空自衛隊の飛行隊長。官民両用の那覇空港の管制官からようやく離陸許可が下り、「センカク」に近づく国籍不明機へ向けて、戦闘機が次々と飛び立っていった。

 

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 スクランブルで那覇を飛び立ってから15分あまり、対象機の大まかな位置についてははるか上空を飛ぶAWACSからすでに伝えられていたが、編隊長の2尉もその機影をまだ肉眼で捉えてはいなかった。

 目標がいると思われる前方に眼を凝らす前に、編隊長は空の青さとまぶしさに眼をなじませるように周囲をさっと見回した。

 15でじっさい空を飛んで驚かされることのひとつが、視界がおそろしく広いということだ。操縦席のちょうど腰のあたりから、すっぽり上がくり抜かれている。透明な風防ガラスで蓋はされているが、支柱で仕切られているわけではないから、その開放感たるや屋根のないスポーツカーで走っているのと変わらない。ほぼ360度の眺めが味わえる。

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