最低賃金千元突破 狙いは内需の刺激だが

執筆者:新田賢吾2008年7月号

 中国の人件費上昇が一段と加速してきた。中国の賃金引き上げのリード役となっている広東省の深セン市は六月初め、経済特区内の最低賃金を月額八百五十元(一元=約十六円)から千元に引き上げ、七月から実施する方針を明らかにした。中国の都市で最低賃金が千元を突破したのは初めてで、一九九〇年代半ばには高給取りの象徴だった「月給千元」が最低賃金となる時代が始まった。 広東省と並んで高賃金の上海市は、四月に最低賃金を九百六十元に引き上げたばかりだが、深センの動きを受け、「秋にも千元以上に引き上げざるを得ないだろう」(上海の日本企業関係者)との見方が早くも出ている。最低賃金が千元になれば、残業代や諸手当をもらう一般的な外資系企業の工場労働者は月額給与が二千元を超えるとみられ、ボーナスなども含めれば中国の工場労働者の年収は三十五万円から四十万円の水準に達しつつある。日本で工場などに派遣される労働者の年収二百万―三百万円と比べ、格差は五―七倍程度に縮小してきたといえる。「中国の賃金は日本の十分の一という時代は完全に終わった」(同)。 ただ、中国に進出している外資が注目しているのは、表面的な金額だけではない。賃金の上昇率に懸念を示す企業が多い。深センの場合、今回の引き上げ幅は特区内で一七・六%、特区外で二〇%となっており、二〇〇七年の引き上げ幅約五%を大きく上回る。賃金の引き上げ幅は消費者物価指数に連動させることが多いが、中国の消費者物価指数は四月に前年同月比で八・五%まで上昇したとはいえ、五月には同七・七%まで下がるなど、まだ二ケタには達していない。最低賃金引き上げには物価上昇のカバーという以上に所得向上による内需刺激という目的が強まっている、と見るべきだろう。

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