連載小説 Δ(デルタ)(30)

執筆者:杉山隆男2017年11月11日
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

ヘリコプター空母と称される、海上自衛隊最大の護衛艦「かが」。その飛行甲板に、陸自特殊部隊「デルタ」のメンバーが降り立った。「かが」乗組員が「デルタ」の任務をそれとなく察知している様子が、あちこちでうかがえる。だが、感慨にふける暇はなかった。作戦司令部からメールが届いた。〈愛国義勇軍が魚釣島に上陸〉――。

 

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 愛国義勇軍の男たちが「うおつり」に搭載されているゾディアックタイプの高速ボートに乗り移り、魚釣島に向かったことは、階段の上、爆破で出入り口の扉が吹き飛んでしまった甲板の方から、男たちのきびきびとした指示の声が静まり、やがてひとしきり大きくなったボートのエンジン音の唸りがしだいに遠ざかっていったことから、市川も察知した。

 市川は傍らの張(チャン)の肩を叩き、階段の下を指さして、下りよう、とうながした。建物で言えば、「うおつり」の機関室は2人がいまいる地下1階部分のもう1層下にある。

 確証はなかったが、1500トンの船を沈めるのなら、船底にもっとも近い場所に爆弾を仕掛けるような気が市川にはしていた。以前その手のことを主任から聞いた記憶があったのだ。

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