建国60年のイスラエルで

執筆者:大野ゆり子2008年7月号

 イスラエルが建国六十周年を迎えた。人間でいえば、ちょうど還暦である。建国記念日(五月十四日)の前に、テルアビブとエルサレムを訪れる機会があった。 イスラエルに行くと聞くと心配してくださる方も多いのだが、爆弾テロなどが起こらない限り、この両都市ほど魅力的な都市はない。地中海に面し、十キロにわたって続く細長い港湾都市テルアビブは、昼間はイスラエル経済の中心地としてビジネス街独特の慌しさと活気を見せ、夜の帳が下りた途端に、お洒落なバーやレストランが軒を連ねる不夜城になる。 一方のエルサレムは、いわずと知れたユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地。キリストの「最後の晩餐の部屋」「十字架に架けられた場所」や、ユダヤ人の聖地「嘆きの壁」、黄金に光るモスク「岩のドーム」を目にすると、書物の中でしか知らなかった歴史が、急に生き生きと甦り、歴史上の人物の息遣いまで聞こえるような気がしてくる。 そして何よりもイスラエルは気候がいい。冬でも十五度から十八度としのぎやすい気温である。春には福寿草、春菊、アイリスなど、聖書にも描写された野生の花々が、赤、黄、紺などの強烈な原色で咲き乱れる。シクラメンやチューリップといった日本人にも馴染みの深い花々も、この地方が原産地なのだという。「テルアビブ」とは、ヘブライ語で「春の丘」を意味するが、第二次世界大戦後に、重傷を負ったヨーロッパの地に比べ、花々に覆われたこの土地が、ユダヤ人にとって希望に満ちた「約束の地」と映ったのも、もっともだろう。

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