羽生善治「永世七冠」決め手は「捨てる」

執筆者:村上政俊2017年12月7日
12月6日、永世七冠達成から一夜明け、自身の記事が掲載された新聞をうれしそうな表情で見る羽生善治二冠 (C)時事

 

 すべてを持つ男になった。12月5日、「竜王」を奪回し、「永世七冠」を達成した羽生善治(47)だ。創設されたばかりの「叡王」を除く全7タイトル戦の永世称号を手に入れた羽生は、いわば「七全達人」(清朝最盛期を築いた乾隆帝が、10回の遠征にすべて勝利したとして自讃自称した「十全老人」に掛けて)という、将棋界の生ける伝説となった。

 しかし、永世称号を全て手中にしたという快挙の表面だけを追うと、羽生の強さの真髄を見落とす。羽生の凄味は「捨てる」ことができるところにある。絶対王者でありながら、自分が手にする冠を捨て、現状維持ではなく脱皮を続けようとするからこそ、活路を開き続けているのだ。

「王位」も「王座」も捨てて

「永世竜王」を獲得する前の今年の羽生には、限界説も囁かれていた。

 8月30日、阿波踊りの余韻冷めやらぬ徳島市の料亭「渭水苑」。この地で羽生は、それまで6期連続で保持していた「王位」を失冠した。敗れた相手は25歳の菅井竜也7段。菅井は、平成生まれで初めてタイトルを獲得した。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。