ユダヤ人シフの助けで1000万ポンドの外債発行

執筆者:野口悠紀雄2017年12月7日
国立銀行が発行した、日本初の紙幣 (C)時事

 

 1904(明治37)年の5月。日露戦争は始まったばかりで、日本軍がまだ大きな勝利を収めていないときのこと。高橋是清は、ある銀行家の晩餐会に招かれた。

 隣に座ったアメリカ人が、話しかけてきた。「日本兵の士気は高いか?」「日本軍の装備はどうか?」等々。

 高橋は、その1つ1つに丁寧に答えた。

 翌朝、イギリスの銀行家が突然、高橋をホテルに訪ねてきて言った。

「昨夜の晩餐会であなたの隣に座ったのは、アメリカの銀行家ヤコブ・ヘンリー・シフというユダヤ人。彼は、500万ポンドの日本の国債を引き受けようと言っている」

 高橋は驚いた。そして、なぜ彼が日本のために力を貸してくれるのか、最初はよく分からなかった。

 司馬遼太郎『坂の上の雲』によれば、シフは、「ロシアは、ユダヤ人を迫害している」と高橋に語ったという。

 彼によれば、「ロシア国内には600万人のユダヤ人がいるが、ロシア帝政の歴史はユダヤ人虐殺史であり、それは今でも続いている」

「ユダヤ人は、ロシア帝政がなくなることをつねに祈っている。もしこの戦争で日本がロシアに勝ってくれれば、ロシアに革命が起こる。革命は帝政を葬るだろう。私はそれを願うがゆえに、あるいは利に合わぬかもしれないが、日本を援助する」

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