米国の共和・民主両党の大統領候補者が出揃い、中東をめぐる多くの課題は次期政権に持ち越される模様だ。両候補の中東政策はまだはっきりしないが、今注目すべきは、今後の米国の対中東関与の政策形成と意思決定が、どのような判断基準の下で、どういった情報源に基づいてなされるのか、という問題をめぐって議論が盛んになっている点である。いわば「中東をめぐる知的インフラ」の再編成が、次期政権を見据えて、活発化している。中東での突発事態も、米政界の浮き沈みも予測がつかない部分があるが、中東をとらえる知的インフラの大きな方向性を見ておけば、米新政権における対中東政策の、少なくともぼんやりとした相貌は描ける。 最大の変化は、「対テロ戦争」という、ブッシュ政権が掲げ、多くの課題をそこに絡めることによって米国民の多数を説得できていた概念が、ついに広範な支持を失ったことだ。「戦争」という概念を用いることによってテロ対策は優先課題とされ、多大な資金が投じられた。「戦争」とされたからこそ総力の結集が可能だったが、テロ対策専門家、特にイスラーム主義のテロリズムを深く見てきた者には、「対テロ戦争」という概念は実は評判が悪かった。

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