身勝手な男の欲望を描きつつ、
その奥の詩情を描く 
評者:杉江松恋(書評家)

 男の本音は情けない。さらに言えばあさましく、いじましい。そんな男たちの、苦笑するしかない実態が描かれるのが、東山彰良の連作小説『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』である。

 舞台となるのは九州地方にあると思われる某私立大学だ。そこに通う男子学生を代表して有象くんと無象くんの2人が狂言廻しの役を務める。命名からも判る通り、彼らの描かれ方は非常に戯画的である。これは他の登場人物にも徹底されており、男たちを翻弄する美女を巡る物語「ビッチと呼ばないで」では有象無象の二人の他に、オレ様くん、束縛くん、勘違い先輩、都合良男(つごうよしお)先輩の四名が、それぞれの情けないやり方で報われない一人相撲を取る。

 落語の「三枚起請(さんまいぎしょう)」よろしく男たちを手玉に取る女性・ビッチちゃんは、別に悪女の振る舞いをしているわけではない。男たちの思い込みが彼女に〈ビッチ〉の名を与えているだけなのだ。世の中には〈〜系〉といった実態のよくわからないカテゴライズが溢れている。また〈女子会〉のように「女子はこうするもの」という決めつけも頻繁に行われる。そうした幻想が、本書の中では象徴化して描かれる。サークル内の恋の鞘当てを描いた「あの娘が本命」の女性登場人物は、本命ちゃんと引き立て役ちゃんだ。なんと身も蓋もない命名、男の本音であることか。

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