ブームに対する警告書と同時に
技術に対する希少な啓蒙書

 昨年末、ビットコインの価格は年初来20倍にも上昇したが、その後は大きく乱高下している。危険だ、もうお終いだと喧伝されながらも未だに市場参加者は後を絶たない。

新潮社/1728円

 欧州連合(EU)の金融規制担当はビットコインを始めとする仮想通貨は「バブル」であると警告し、米国の証券取引委員会(SEC)も日銀総裁も金融システムの安定性というよりは、むしろ投資家性確保の観点から同様の警告を発している。一体、仮想通貨とは何であるのか、本格的な解説書が待たれていた。
 この本の著者は証券決済システムの研究者である。数多ある解説書の中で、これを生業とするマーケターやエンジニアではなく、大局からこの現象を俯瞰し評価できる数少ない専門家だ。
 本書の構成は大きく2つからなる。前半が現在話題の仮想通貨に関して、コイン自体は堅牢であるが、保管や流通システムが脆弱であること。価格変動が激しく通貨として不適切であること。技術的に量的な限界を持ち、そのことが希少性を生み出してはいるが、永続性に疑義があること。また通貨としての信頼性の側面から当局の規制の対象になりえること。などを指摘している。
 そして後半部分がこの本の本題である。世間ではビットコインの投機性に眼が行くが、重要なことはそのコア技術であるブロックチェーン(分散型台帳技術)の革新性の方にあるのだと強調する。中央銀行によるデジタル通貨の発行、国際送金、証券決済など具体的な実証実験の状況を紹介しながら、ブロックチェーンは決済技術として「金融のメインストリーム」に革新を起こすだけでなく、決済を伴うあらゆる非効率な分野に影響をおよぼすことが示唆されている。
 本書はビットコイン・ブームに対する警告書であると同時に、近い将来、ビジネスマンにとって必須の知見となるブロックチェーン技術に対する希少な啓蒙書でもあるのだ。

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