現地ルポ「来日インドネシア人介護士」の声

執筆者:出井康博2008年8月号

[ジャカルタ発]六月のある早朝、ワユディン君(二六)はインドネシアの首都ジャカルタ近郊のパーキングエリアで、イスラム教徒へのお祈りの呼びかけ「アザーン」を聞いていた。「アッラーフ、アクバル」(神は偉大なり) 遠くのモスク(イスラム寺院)から拡声器を通じ、厳かな声が繰り返し流れている。時刻は午前四時半を回っているが、辺りはまだ真っ暗だ。気温は二十度を少し超える程度。しかし、熱帯特有の湿気のせいで、じっとしていても汗が滲むほどだ。 ワユディン君は五十人以上の仲間と一緒にパーキングエリアのトイレへと向かった。お祈りの前には手足を清める必要があるが、ここにはトイレ以外に水場はない。独特の甘い香りを放つインドネシアのタバコ「ガラム」と尿の臭いが混じり合うトイレへ入ると、ワユディン君は汗ばんだシャツを脱ぎ、頭から水をかぶり、そして祈った。(どうか、日本で働くことができますように……) ワユディン君ら一行は皆、同じ看護学校で学んでいる。学校はジャカルタから約二百キロ離れたチルボンという町にある。前日の深夜、バス二台でチルボンを発ち、ここまでやって来た。 数時間後、ジャカルタ中心街で日本人による面接を受ける。相手は日本の厚生労働省傘下の社団法人「国際厚生事業団(JICWELS)」。面接を無事に終え、さらに健康診断もクリアすれば、念願の日本で介護士として働く夢が叶う。ワユディン君にとっては、人生を左右する一日が始まろうとしていた。

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