インド経済を十三年ぶりとなる高水準のインフレが襲っている。六月二十八日までの一週間の卸売物価上昇率は前週を〇・二六ポイント上回る年率一一・八九%に達した。耐久消費財の価格上昇や中央銀行の金融引き締めを通じて内需の伸びにブレーキがかかり、インド経済は減速を避けられそうにない。 乗用車最大手のスズキ子会社マルチ・スズキは五月、すべての現地生産車種で最大四%の値上げに踏み切った。競合する韓国の現代自動車や地場系のタタ自動車もすぐに追随。資源・原材料の高騰を震源地とするインフレが、製造業を引っ張ってきた自動車業界に及んだ形だ。 だが値上げは両刃の剣だ。インフレ退治をめざすインド準備銀行(RBI)の利上げの結果、自動車ローン金利はすでに年一四%に達している。消費者にとっては値上げと高金利のダブルパンチだ。「販売の急減速となってメーカーに跳ね返る恐れもある」(日系メーカー)。マルチの六月の新車販売が前年同月比〇・七%増にとどまったのは、その兆候かもしれない。 任期満了まで一年を切った国民会議派を中核とするマンモハン・シン政権にとっても、インフレは次の総選挙に向けた最大の脅威となっている。物価上昇を放置すると野菜や食用油などの生活必需品価格に敏感な大衆から総スカンを食らいかねないからだ。選挙へのインパクトは、政界を二分してきた米印原子力協定への賛否をはるかにしのぐ。

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