「暴動大国」中国に散らばる万余の導火線

執筆者:藤田洋毅2008年8月号

少女の不審死をきっかけに、天安門事件以来の大デモが発生。胡政権の「親民政策」も、現場にはまったく届いていない。《一月新疆ウイグル自治区、二月広東省、三月チベット自治区、四月山東省、五月四川省、六月貴州省――そのすべてに居合わせなかったあなたは幸運だ》 北京で囁かれるブラックジョークだ。治安部隊がテロリストのアジトを急襲し銃撃戦となった一月のウルムチ、歴史的大寒波が春節に重なった二月の南方、ラサを中心に燃え上がった三月のチベット騒乱、この十年で最悪となった四月の山東省での列車衝突事故……。五月が四川大地震を指すのは言うまでもない。 実は元のバージョンでは、六月は東京・秋葉原の通り魔無差別殺傷事件が使われていた。だが六月二十八日、貴州省甕安県を舞台に、数百人が県の党委員会・政府・公安局などの庁舎を襲って火を放ち、最大三万人の群衆が加わる暴動が起こった。「やはりわが国か」と、先のジョークを紹介した党中央の幹部は肩を落とす。「七月はどこでなにが起こるのか。八月は北京で決まりだし……」。傍らの国務院中堅幹部が補足した。「北京市公安局の友人によると、二、三発は仕方ないそうです」。 胡錦濤総書記(国家主席)はじめ、五輪担当の習近平国家副主席や治安最高責任者の周永康・党中央政法委員会書記らは、危機感あらわに「社会の安全・安定を確保せよ」と呼びかける。だが、第一線を預かる北京市公安局幹部は「テロリストを完全に封じ込めるのは至難。五輪会場や周辺、内外の要人に被害が出なければとりあえずは合格点」と弱音を漏らし、「他の地域までは、とても手が回らない。爆弾が二、三発炸裂しても、政治や社会の大局に影響を与えない程度に抑え込めるかどうかが焦点だ。わが管轄地域だけは勘弁してほしい」と吐露したというのだ。

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