「減反ストップ」のラストチャンスは今だ

執筆者:山下一仁2008年9月号

世界で穀物が高騰し、食糧危機が迫る中、わが国は「逆方向」の農政を墨守している。やがてコメ不足、米価高騰、そして農業崩壊が……。 妥結するかに見えた世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉が、アメリカと中国・インドの対立で暗転、七月二十九日、決裂するに至った。途上国(インドなど)が農産品に対する緊急輸入制限を行なう条件の緩和を求めたが、アメリカが拒否したのだ。農業関係者は、若林正俊農林水産大臣(当時)、加藤紘一元自民党幹事長、谷津義男元農相ら与党農林族幹部、宮田勇JA全中(全国農業協同組合連合会)会長(当時)らが大挙ジュネーブに駆けつけていた。関税削減が主要テーマの中、コメだけでなく乳製品、麦、砂糖など一二%にも及ぶ品目の高い関税を守りたい日本だったが、関税削減の例外扱いが認められる「重要品目」の数について、盟友と思っていた欧州連合(EU)から四%という低い数字を突き付けられた上、ラミーWTO事務局長に「原則四%、追加の譲歩付きで六%」とする裁定案を提示される状況に追い込まれていた。関係者は、米印中の対立で合意に至らず胸をなでおろしたことだろう。 日本のコメ生産量は昨年八百七十万トンだったが、一九九五年のウルグアイ・ラウンド交渉などを経て、高い関税率(七七八%)を維持する代わりに、ミニマムアクセスという低税率の枠で、年間七十七万トンのコメを政府が輸入している。ウルグアイ・ラウンド合意受け入れに際し、「ミニマムアクセス米は国内のコメの減反に影響を与えない」という閣議了解をしたため、政府は国内食用市場で売ることを控え、タダ同然で飼料用などに回してきた。日本経済新聞(二〇〇七年八月十四日)は、わずかな売却収入を除くと、購入と輸送経費に約三百億円、保管費用に約二百億円、合計五百億円のコストが毎年ミニマムアクセス米にかかっていると報じている。

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