暗殺発表の翌日、記者会見に登場した「フェイクニュース」の主人公、ジャーナリストのバブチェンコ氏 (C)AFP=時事

 

 ウクライナ治安当局が反プーチンのロシア人ジャーナリスト、アルカディ・バブチェンコ氏がキエフで暗殺されたと発表し、翌日一転して暗殺阻止のための芝居だったと訂正したことは、前代未聞の「官製フェイクニュース(偽情報)」となった。ウクライナの対応は各方面から批判されており、バランスシートはマイナスだろう。ロシアに押され気味の現状への焦りがうかがえるが、両国の水面下の情報戦の激しさを見せつけた。この問題が、東部での戦闘再燃につながる可能性もある。

ブタの本物の血を利用

 ウクライナ当局が5月29日、バブチェンコ氏がキエフの自宅アパートで何者かに暗殺されたと発表し、血まみれの死体の写真が公開されると、非業の死を悼む声が殺到し、ロシアの仕業とする見方が広がった。ウクライナのヴォロディーミル・フロイスマン首相は、「ロシアはバブチェンコ氏の信念と誠実さが許せなかったに違いない」とネットに投稿していた。

 しかし、ウクライナ保安庁のバシル・グリツァク長官は30日記者会見し、「暗殺事件を阻止し、容疑者を特定するための特殊作戦であり、偽装だった」と発表。この作戦でロシア情報機関に雇われたウクライナ人らを拘束し、標的リストを入手したと述べた。バブチェンコ氏も会見場に現れ、「1カ月前にこの作戦を持ちかけられた時、怒りを覚えたが、暗殺計画を詳しく知って作戦に協力することにした」「3つの穴が開いたTシャツを渡され、本物のブタの血を使って死人になった」「妻にも知らせておらず、彼女が警察に通報し、救急車を呼んだ」などと釈明した。

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