ようやくスペインに上陸できた「アクエリウス号」の難民たち(C)AFP=時事

 

 6月17日(日)スペイン東部のバレンシアの市庁舎の壁には、垂れ幕が風にたなびいていた。「私たちは受け入れます」、「過去は黒と白だ。未来は多彩な色だ」とスローガンが書かれていた。そして港では、2300人の支援者たちが前日から待機していた。赤十字社から1000人、400人もの通訳、350人もの警官、そして政治家やメディア……。約630人を乗せて1週間以上地中海を漂流した難民救助船「アクエリウス」号の到着だ。

 仏紙『ル・モンド』は19日付の紙面で、スペインの難民船救出劇を、ホメロスの叙事詩になぞらえて「オデュッセイア(トロイ戦争後10年間にわたる英雄オデュッセウスの漂流と冒険談)」と持ち上げた。スペインのマリアノ・ラホイ保守派政権が汚職事件の疑惑をめぐって不信任決議で辞職した後、今月1日に成立したばかりのペドロ・サンチェス社会労働党新政権は、さながら「ヨーロッパ人道主義の英雄」と言わんばかりの勢いだ。新政権は少数与党で厳しい舵取りを当初から余儀なくされている。難民救出は誕生直後の政権浮揚にはうってつけの判断だった。

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