株券電子化から脱落する証券会社

執筆者:大神田貴文2008年9月号

時代の要請であるのは間違いないが、役人と天下りで決めた「青写真」には無理があった。それでもこのまま突っ走る? これまで紙に印刷されていた上場企業の株券が、来年一月五日から電子データに置き換えられるらしい。金融庁や東京証券取引所、証券業界はスケジュール通りの実施に向けて作業を急いでいるとされる――どうも断定的な書き方ができないのは、証券業界の実情を知れば知るほど、予定通りのスタートは難しいと感じざるをえないからだ。 日本証券業協会(日証協)は毎月の定例会見で、報道各社に株券電子化作業の進捗状況を報告している。七月三十一日も、電子化に必要なコンピューターシステム構築の進み具合など紋切り型の質問に対して、大久保良夫専務理事が「万全の態勢で臨む」「順調に進んでいる」と応じた。前者は単なる決意表明であり、後者は結論から言えば嘘になる。早くて今秋、遅くとも年末には表面化するであろうトラブルが、記者たちにはまだ見えていないようだ。 株券の電子化は、上場会社の紙の株券を無効にする代わりに、電子データとして一括管理するもの。一株ずつ固有の番号を与え、これに株主名や売買日時などのデータを付け加える。取引があれば、名義を売り手から買い手に書き換えるだけでよく、紙の株券を介在させる必要はない。二〇〇三年九月に商法改正案が法制審議会でまとまり、翌年六月に「株券不発行制度」の導入を定めた改正法が成立した。

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