歌舞伎俳優の中村勘三郎さん(五三)がドイツのベルリンとルーマニアのシビウで公演を行なったのは、今年五月から六月にかけてのこと。きっかけは、現在歌舞伎座で上演中の『野田版愛陀姫』(ベルディのオペラ『アイーダ』の戦国時代版翻案)でも作・演出を務める劇作家・演出家の野田秀樹氏らの勧めだったという。「今のベルリンは、街も演劇もエネルギーがあって刺激的だよって。そういう場所の空気も吸いたかったし、いろいろなものを見たかった。もちろん、そこで歌舞伎もやってみたかった」 実際に行ってみると、ベルリン・フィルは地下鉄の構内で演奏をしているし、出演者が舞台上でオールヌードになってしまうような過激な演劇など、芸術的な“挑戦”がさまざまな形で行なわれていた。巨大テント小屋での歌舞伎公演や野田氏ら現代劇演出家とのコラボレーションなど、「伝統」の枠組みを飛び越え続けてきた勘三郎さんも、「あれからすれば、僕らのやっていることなんか甘いもんだ」 と圧倒された。 持って行った演目は「コクーン歌舞伎」でもお馴染みの『夏祭浪花鑑』。二〇〇四年には米ニューヨークのリンカーンセンターでの上演で絶賛されたが、ドイツでの公演は初めて。観客は舞台の出来不出来に厳しく、つまらなかったときに劇場から抜け出しやすいように、席は隅のほうから埋まっていくという。

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