イギリス 「平等化」追求の皮肉な結果

執筆者:サリル・トリパシー2008年9月号

[ロンドン発]ゴードン・ブラウン首相は悩みの種が尽きない。経済の見通しは暗いし、労働党は五月のロンドン市長選をはじめ、地方選挙や補欠選挙で負け続けだ。官僚たちは、ブレア政権の財務相時代からブラウンがぜったいに譲らないと公言してきた財政健全化路線を静かに踏み外したばかりか、重要な機密書類をそこらに置き忘れて無神経さと無能さをさらけ出している。 加えて、イギリスにはもう一つの危機がある。目立たないが、長期的にはイギリスの未来を左右する大きな問題だ。公教育の危機である。イギリスではこの五十年間、労働党が政治力を増すにつれ、特権階級を無くすという目的のもと、公教育の「平等化」が進められた。その皮肉な結果として、さまざまな歪みが生まれている。「孟母三遷」的引っ越しが頻発 イギリスの義務教育は、五歳から十六歳になるまでの十一年間。一九九二年に全国共通の教育課程が定められ、全児童生徒の九割が通う公立の学校はこれに従うことになっているが、私立学校は従う義務がない。 十一年間の義務教育は「キーステージ1(一―二年生)」「キーステージ2(三―六年生)」「キーステージ3(七―九年生)」「キーステージ4(十―十一年生)」に分けられ、子供たちはステージごとに達成度を見る試験を受ける。そして、十一年生の時に全国一斉に行なわれるGCSE(中等教育修了資格試験)を受ける。十年生と十一年生はこの試験に向けて、進学するか職業訓練の道に進むか考えながら自分が受験する試験科目を選択する。GCSEで優秀な成績を収めた生徒は、さらに二年間の高校生活を経て大学に進学できる。

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