一九八六年のソ連チェルノブイリ原発事故以降、脱原発が顕著だった欧州で、推進に固執し続けたフランスはむしろ異端だった。状況が一転したきっかけは近年の地球温暖化への意識の高まり。英国や北欧で原発見直しの機運が生まれ、中国でも原子炉二基を受注するなど、技術先進国フランスは我が世の春を謳歌するようになった。 それだけに、七月に相次いだ原子力企業アレバの子会社での事故は「フランスの技術は本当に大丈夫か」との疑問を投げかける結果となってしまった。 南仏トリカスタンのウラン濃縮工場から出る廃液の処理施設で八日に起きたのが最初の事故。天然ウラン約七十四キロを含む廃液がタンクからあふれ、地表に流れ出た。政府は地下水の使用や河川での遊泳を禁止。周辺では三十年前から放射性廃棄物が漏れていたとの疑惑も浮上した。十八日には南仏ロマン・シュル・イゼールの研究炉用核燃料製造工場で配管が破れ、ウラン数百グラムを含む放射性物質が漏れ出したことがわかった。こちらも数年前から起きていた可能性が指摘された。 いずれの事故も、国際原子力事象評価尺度(INES、八段階)の暫定値は低い方から二番目のレベル1。日本ならそれでも大変な騒ぎだが、アレバ関係者は「今までに比べ大したことはない」という。実際、仏国内ではレベル2の事故が二〇〇四年から三年連続で起きている。レベル1の事故は〇七年に八十六件(!)、〇六年には百十四件もあった。それでも騒がないお国柄だが、今回は、事故の公表が後手に回り地元の不信感が募ったことが騒動につながった。

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