ここはいったいどんな施設だろう。軍事基地にしては警備が手薄だし、民間施設にしては門構えが極めて閉鎖的だ。敷地内には多数の特殊車両が整然と駐車されており、ボディーの色はすべてホワイトで統一。ならば「国連の施設に違いない」と当て推量してみたものの、国連軍の象徴であるブルーヘルメットをかぶった軍人の姿がどこにもないので、この推理ゲームは振り出しに戻る。 コソボ、カンボジア、アフガニスタンなど内戦や地域紛争を経験した国々に、こうした施設はよく見られる。人口が密集する都市から遠方の辺鄙で、しかも人家から離れた寂しい場所にポツンとある。特徴は、周辺に無数の対人地雷が散布・敷設されていることだ。 ここは、英国が世界に誇る地雷除去専門の慈善団体HALOトラストの前線本部である。HALOはハローではなくヘイローと読む。地雷除去専門のNGO(非政府組織)というだけあって、施設内には来訪者への情報提供を目的に地雷展示室が設けられている。小型の対人地雷から大型の対戦車地雷まで、戦場で多種多様な地雷が使われてきたことが一目でわかるように、展示が工夫されている。 HALOを一躍有名にした立役者は、英国の故ダイアナ妃だ。かつて、HALOの作業現場で、防護用の大型ゴーグルをかけたダイアナ妃が、地雷除去のキャンペーンに加わった。近年では、米国の共和党大統領候補ジョン・マケイン氏のシンディー夫人が、HALOの評議員としてコソボ、カンボジア、スリランカ、アンゴラ、モザンビークなどを相次いで訪問し、世界に地雷除去の重要性を訴えている。ダイアナ妃やマケイン夫人といった“セレブ”の参加によるPR効果は、国際NGOの集金力を飛躍的に向上させていることは間違いない。どんなに素晴らしい目的や使命を掲げても、活動資金を集められなければ存続できない。その点、HALOには英、米、日本、スイス、オランダなどの各国政府が資金を提供し、グローバルな地雷除去活動を全面的に支えている。

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